「設定を変えたのに反映されない」——きっかけは、現場からのそんな小さな問い合わせ1件でした。多店舗でスタッフが働くある会社では、勤務シフトを表計算ソフト上のデータで管理し、自作の仕組みで運用しています。この1件を調べる過程でデータ全体をAIで一斉点検したところ、見た目では気づけない「二重登録」が21件も見つかりました。今回は、その点検から再発防止までの一部始終をご紹介します。
- 問い合わせ1件をきっかけに勤務データをAIで一斉点検したら、同じ人が同じ時間帯に2店舗で登録されている二重登録が21件見つかった。
- 21件はすべて毎週同じ曜日に再発しており、原因は大元の「曜日パターン表(マスタ)」にあった。当月分だけ直しても翌月また再発する構造だった。
- 修正前のバックアップと、修正後の「重複ゼロ件」自動チェックを徹底し、人員配置の数字が実態どおりに戻った。
課題:見た目では気づけない二重登録が、人数を狂わせていた
問い合わせ自体は「設定を変えたのに反映されない」という、よくある内容でした。ところが原因を調べるうちに、気になるデータがぽつぽつと目に入ります。そこで対象を1件に絞らず、勤務データ全体をAIで一斉点検することにしました。すると、同じスタッフが同じ日に2つの店舗で、時間の重なる勤務として二重に登録されているケースが21件見つかったのです。
厄介なのは、この二重登録が見た目ではほとんど分からないことです。店舗ごとの画面ではどちらも「正しい勤務」に見えます。しかし裏側では、人員の頭数(各店舗に何人配置されているかの計算)が二重に数えられ、配置人数の数字が実態からずれていました。
やったこと:AIで分類し、大元のマスタまで遡った
21件を1件ずつ人の目で調べるのは大変です。そこでAIに全件の中身を突き合わせさせたところ、原因は2つのパターンにきれいに分類できました。
- 残骸パターン:スタッフが店舗を異動したあと、異動前の古い店舗のデータが消されずに残っていたもの。
- 設定ミスパターン:2店舗を掛け持ちする働き方なのに、勤務時刻の区切りが正しく設定されていなかったもの。
さらに掘り下げると、重要な事実が見えてきました。21件はすべて、毎週同じ曜日に再発していたのです。この会社では、毎月のシフトを「曜日パターン表(マスタ=大元となる設定表)」から自動生成しています。つまり原因はマスタ側にあり、目の前の当月データだけ直しても、翌月にはまた同じ二重登録が生まれる構造でした。そこで当月分の修正と合わせて、マスタ側の修正リストを作成しました。
点検の副産物もありました。マスタの見出しセルに誰かのメモ書きが貼られて項目名が消えてしまい、翌月分の自動生成が止まっていた障害を発見できたのです。復旧したうえで、見出し行に保護(誤って書き換えられないようにする設定)をかけ、再発を防ぎました。
つまずいた点:消したはずの行が、何度でも元に戻る
- プログラムから不要な行を削除しても、なぜか元に戻ってしまう現象に遭遇しました。原因は、誰かが同時に同じシートを開いていると、行の削除のような「構造の変更」が巻き戻ることがあるという挙動です。共同編集の便利さの裏にある、盲点でした。
- 対策として、行削除そのものをやめ、「セルの値を消す・書き換える」方式に切り替えたところ、修正が確実に残るようになりました。
- 安全策として、修正前には必ずデータのバックアップを取得。修正後は「同じ日・同じ時刻の重複がゼロ件であること」を自動チェックで確認し、直したつもりを防ぎました。
結果
二重計上が解消し、店舗ごとの人員配置の数字が実態どおりになりました。振り返って大きかったのは、入口がたった1件の問い合わせだったことです。もし1件だけ直して終わりにしていたら、残りの20件と、毎月再発するマスタの問題には気づけませんでした。目視で全データを突き合わせる点検は現実的には不可能な量でしたが、AIなら短時間で全件を洗い出せます。「1件の不具合の背後に、同じ原因の仲間が隠れていないか」を機械的に確かめられるのが、AI点検のいちばんの価値でした。
この型が使える会社
- シフト・在庫・顧客名簿など、表計算ソフトで長年運用しているデータがあり、「たぶん多少の誤りは混ざっている」と薄々感じている会社。
- マスタ(大元の設定表)から毎月のデータを自動生成する仕組みを使っていて、同じ誤りが繰り返し発生している会社。
- 現場からの問い合わせを個別対応で終わらせがちで、根本原因まで手が回っていない会社。
データの誤りは「入口の1件」の背後に、同じ原因の仲間が隠れていることが多い。対症療法で終わらせず、大元のマスタまで遡って直すこと。そして修正前のバックアップと修正後の自動チェックを欠かさないことが鉄則です。
今回の点検は、大がかりなシステム刷新をしたわけではありません。既存の表計算データをそのままに、AIで「全件を突き合わせて調べる」という人手では割に合わない作業を肩代わりさせただけです。現場から小さな問い合わせが来たときこそ、チャンスです。その1件の裏に仲間が隠れていないか、一度データ全体をAIに点検させてみてください。
この記事のような仕組み、自社にも入れられます
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