「せっかく導入してもらったのに、使われているのか分からない」——ツールを提供する側にとって、これは想像以上に深刻な問題です。店舗経営者向けに、売上などの経営データをまとめて見られるダッシュボード(複数のデータをひと目で確認できる管理画面)を「ツール+毎月1回の打ち合わせ」のセットで提供しているあるIT企業も、まさにこの悩みを抱えていました。今回は、「誰が・いつ・どの画面を見たか」を記録して集計する仕組みをAIとの共同開発でツール自体に組み込み、利用状況を見える化した事例をご紹介します。
- 「導入したのに使われず、気づいたら解約」を防ぐため、利用状況を記録・集計する仕組みをAIとの共同開発でツール自体に組み込んだ。
- 自社スタッフの操作とお客様自身の操作は、記録の時点で分けた。後から分けることはできないため、最初の設計で入れた。
- 0〜100点の「活用スコア」は計算基準が恣意的になるため廃止し、「利用した日数」と「操作の回数」という生の数字をそのまま見せる方式にした。
- 毎月の打ち合わせで先月の利用状況を事実として示せるようになった。解約率への効果測定はこれから。
課題:「使われているか」を提供側が知る手段がなかった
経営ダッシュボードのようなツールには、典型的な失敗パターンがあります。「導入したのに使われない→気づいたら解約」という流れです。この会社は毎月1回の打ち合わせをセットにしていて、使われ続けるための接点は持っていました。ところが肝心の「先月どれだけ使われたか」を知る手段が提供側になく、打ち合わせの場でも感覚の話しかできませんでした。
- お客様のツール利用が減っていても、提供側は気づけない。解約の連絡が来て初めて分かる。
- 毎月の打ち合わせがあるのに、「最近ご覧いただけていますか」という感覚頼みの会話しかできない。
- どのお客様を優先してフォローすべきか、根拠を持って決められない。
やったこと:利用の記録と集計を、ツール自体に組み込んだ
そこで、誰が・いつログインし・どの画面を・どれくらい見たかを記録して集計する仕組みを、AIとの共同開発でツール自体に組み込みました。毎月の打ち合わせで「先月の利用状況」を数字で見せられるようにし、その数字の使い道は次の2つに絞りました。
- 解約の予兆察知:利用が減っているお客様を早めに見つけて、フォローに入るきっかけにする。
- 打ち合わせの議題づくり:よく見られている画面・見られていない画面から、次にご案内すべき機能や話すべきテーマを決める。
つまずいた点:数字は「集め方」を間違えると使えない
この取り組みで最大の設計判断は、「自社スタッフの操作」と「お客様自身の操作」を、記録する時点で分けたことです。サポートのために社内メンバーがお客様の画面を操作すると、その分が利用量に混ざって水増しされ、実際には使われていないのに「使われている」と誤読してしまいます。しかもこの区別は、後から付けることができません。記録の時点で「誰の操作か」の印を付けておかないと、過去にさかのぼって分けることは不可能なのです。だからこそ、機能を作り込む前の最初の設計に入れました。
- 「活用スコア」を捨てた:当初は利用状況を0〜100点のスコアに合成して見せていましたが、点数の計算基準がどうしても恣意的(作り手のさじ加減次第)になるため廃止しました。「利用した日数」と「操作の回数」という生の数字をそのまま見せる方式に変更。かっこいい1つの点数より、説明できる2つの数字を選びました。
- 使い始めて日が浅いお客様は「集計中」と表示:データが少ない段階で良し悪しを判断すると、誤った印象を与えかねません。判断できるだけのデータがたまるまでは、あえて評価を出さない仕組みにしました。
結果
毎月の打ち合わせで、「先月は何日使われたか」「どの画面が見られたか」を事実として示せるようになりました。利用が減っているお客様には早めにフォローに入る、という動きの土台ができています。一方で、正直にお伝えすると、この仕組みで解約率がどれだけ下がったかといった効果の測定はこれからです。「数字を見せられる状態」を作ったのが現在地であり、成果を確かめるのは次の段階です。
この型が使える会社
- ツールやシステムを月額・継続課金で提供していて、「導入後に使われ続けるか」が売上を左右する会社。
- 顧客との定例打ち合わせや月次報告の場があるのに、話す材料がいつも感覚頼みになっている会社。
- 「解約されてから理由を知る」のではなく、その前に手を打てる体制を作りたい会社。
ツールは「入れて終わり」ではなく、「使われているか」を提供側が数字で握って初めてサービスになる。そして利用データは、誰の操作かを最初から分けて記録しないと使いものになりません。
この事例で作った仕組み自体は、派手なものではありません。しかし「使われているか」が数字で見えるかどうかで、提供側の動き方は大きく変わります。もし自社の商品やサービスに「導入後の姿が見えない」という不安があるなら、まずは「何を・誰の操作として記録するか」を決めるところから始めてみてください。後から取り返しがつかないのは、機能ではなく記録の設計です。
この記事のような仕組み、自社にも入れられます
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