売上のグラフは毎月見ている。会計の件数も分かる。でも、その売上を作っているのが「初めてのお客様」なのか「通い続けてくれている方」なのかは、実はよく分からない——。同じお客様に繰り返し来てもらうことで成り立つ、店舗型サービスを複数展開するある事業者が抱えていたのは、この「客数の中身が見えない」という課題でした。今回は、レジに溜まっていた会計データだけを使って、お客様を「新規」「常連」「久しぶり」に分けて数えられるようにした事例をご紹介します。
- レジの会計データから同じお客様を1人として数え直し、客数を「新規・継続・復活」の実人数で毎月見えるようにした。
- 2回目の来店につながった割合を「初回に来た月」ごとに追えるようにし、リピートの実態を数字にした。
- 名前が記録されない会計が混ざるため、延べ来店数と実人数を分けて表示し、内訳の足し算が合うことを画面上で検算できるようにした。
- 新しい分析ツールの契約はゼロ。既存のレジデータと、AIとの共同開発だけで実現した。
課題:客数は数えていたのに、中身が分からなかった
この事業者では、売上と会計件数は毎月きちんと確認していました。ところが、リピートで成り立つ業態にもかかわらず、次のことが誰にも答えられませんでした。
- 今月の客数のうち、初めてのお客様は何人か。通い続けてくれている方は何人か。
- 初めて来たお客様のうち、2回目につながった方はどれくらいいるのか。
- 足が遠のいていたお客様が、久しぶりに戻ってきてくれた数はどれくらいか。
中身が見えないと、経営の話題はどうしても「新規を増やす広告」に偏ります。本当は再来店に手を打つべき局面でも、それに気づけないままになってしまうのです。
やったこと:会計データから「人」を数え直した
使ったのは、レジにすでに溜まっていた会計明細のデータだけです。これを社内のダッシュボード(経営数値をまとめて見る画面)に取り込み、AIとの共同開発で集計の仕組みを組み込みました。柱は2つです。
1つめは「名寄せ」。会員番号で記録された会計と、名前だけで記録された会計を突き合わせ、同じお客様を1人として数え直します。このとき、同姓同名の可能性がある場合は無理に同一人物とみなさない、という安全側のルールにしました。2つめが3分類です。
| 分類 | 意味 | 見えると分かること |
|---|---|---|
| 新規 | 初めて来店したお客様 | 集客(広告・紹介)の効果 |
| 継続 | 直近12ヶ月以内にも来店がある方 | 常連の土台がどれだけ厚いか |
| 復活 | 12ヶ月以上あいて戻ってきた方 | 掘り起こし施策の効果 |
さらに、初めて来た月ごとにお客様をグループ分けし、「そのうち何割が2回目の来店に進んだか」を表で追えるようにしました。リピートビジネスでは、この2回目に進む割合が最初の関門になるためです。
つまずいた点:数字を「正直」にするのが一番大変だった
- 名前のない会計が一定数混ざる。レジの記録には、お客様情報が紐づかない会計がどうしても含まれます。これを無視すると内訳の合計が合わなくなるため、「延べ来店数」と「実人数」を別の数字として表示し、足し算が合うことを画面上で検算できるようにしました。
- 数字の確からしさに差がある。名前のない会計の割合が高い店舗は、分析の確度がどうしても下がります。そこで各店舗の数字に信頼度の表示を添え、鵜呑みにしない設計にしました。
- 集計のズレに気づける仕組み。会計明細から集計した売上と、日々の売上報告が3%以上食い違ったら警告を出すようにし、データの取り込み漏れなどに気づけるようにしました。
- 直近の月は低く見える。先月初めて来たお客様は、まだ2回目が「起きていないだけ」かもしれません。観測期間が足りない月は「集計中」と明示し、誤読を防ぎました。
結果
毎月の客数が、実人数で、しかも「新規・継続・復活」の内訳付きで見えるようになりました。初回月ごとの2回目来店率も表で追えるため、「新規は取れているが2回目につながっていない」「常連の土台は厚いが新規が細い」といった店舗ごとの状態を、感覚ではなく数字で話せるようになりました。外部の分析ツールを新たに契約することなく、すでに手元にあったレジのデータだけで、ここまで見えるようになっています。
この型が使える会社
- 美容室・教室・治療院・飲食など、同じお客様に通い続けてもらう業態の会社。
- レジやPOSに会計データが溜まっているのに、売上の確認にしか使っていない会社。
- 広告で新規は取れているはずなのに、思ったほど売上が積み上がらないと感じている会社。原因が「2回目につながっていない」ことにあるか、数字で確かめられます。
「売上」ではなく「人」を数えると、打つべき手が変わる。新規・常連・久しぶりの内訳は、レジに眠っている会計データだけで見えるようにできます。ただし、名前のない会計の扱いのような「数字の正直さ」を仕組みで担保することが条件です。
この事例のポイントは、新しいデータを集め始めたのではなく、すでにあるデータの数え方を変えたことです。レジの会計データは、多くの会社で「売上の確認」にしか使われていません。そこにはお客様一人ひとりの来店の履歴という、リピート経営に一番効く情報が眠っています。まずは自社のレジからどんなデータが取り出せるかを確認するところから始めてみてください。
この記事のような仕組み、自社にも入れられます
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