広告を出そうと媒体の管理画面を開いたものの、専門用語と設定項目の多さに手が止まってしまった——そんな経験のある方は多いのではないでしょうか。店舗経営者向けの経営ダッシュボード(売上や広告の数字をひと目で確認できる画面)を提供しているあるIT企業は、「広告の数字を見る」だけでなく「そこから広告を出す」ところまでを自社のダッシュボード内で完結させました。今回は、その仕組みをAIとの共同開発で作った事例をご紹介します。
- 広告媒体の公式管理画面を開かずに、自社ダッシュボードから目的別テンプレートで広告を出せる仕組みをAIと共同開発した。
- 広告は必ず「一時停止」の状態で作成し、人が確認してから配信を開始する2段階方式。作成に失敗したら作りかけを自動で削除する。
- 日本円の通貨単位の扱いで予算が100倍になりかけるなど、外部連携ならではの罠が合計8個あり、本番相当のテストで一つずつ潰した。
- 出稿は「詳しい人に依頼して待つ」から「その場で数分」になり、作業の属人化が解消した。
課題:出稿のたびに「詳しい人」の手が必要だった
広告媒体の公式管理画面は、広告運用を仕事にしている人向けに作られています。キャンペーン、配信面、入札……と専門用語が並び、設定項目も膨大です。店舗のスタッフや社内の運用チームが「ちょっと広告を出したい」と思っても、どこを触ればよいのか分からないのが実情でした。
- 出稿のたびに、社内の詳しい人へ依頼する必要があり、その人の空き待ちで時間がかかっていた。
- 設定項目が多く、慣れていない人が触ると、意図しない設定のまま配信してしまうリスクがあった。
- 数字を見る画面と広告を出す画面が別々で、「気づいたその場で動く」ことができなかった。
やったこと:目的別テンプレートで「入力するだけ」に
そこで、「来店を増やす」「問い合わせを増やす」「投稿を宣伝する」といった目的別のテンプレートを9種類用意し、ダッシュボードから必要事項を入力するだけで広告が出せる仕組みを、AIとの共同開発で構築しました。裏側では、SNS広告はAPI(外部のサービス同士をつなぐ連携の仕組み)で即時に作成し、検索広告は1時間ごとの自動処理で親となるキャンペーンに追加される方式です。使う人はその違いを意識する必要がありません。
- 入力しながら、実際の広告の見た目がその場でプレビューされる。完成形を想像しなくてよい。
- 画像はファイルを置くだけで登録できる。AIに見出し・本文・広告画像の下書きを作らせるボタンも用意した。
- 安全設計として、広告は必ず「一時停止」の状態で作成し、人が内容を確認してから配信を開始する2段階方式にした。さらに、作成が途中で失敗した場合は、作りかけの部分を自動で削除してゴミを残さないようにした。
この「一時停止で作る」と「失敗したら自動で片付ける」の2つが、この仕組みの目玉です。自動化というと「ボタン一つで即配信」を想像しがちですが、あえて最後の一歩に人の確認を挟むことで、慣れていない人にも安心して任せられる形にしました。
つまずいた点
- 最大の危険は通貨の単位の罠でした。広告媒体の外部連携は金額を「最小単位」で扱う仕様になっており、多くの通貨には円に対する「銭」のような補助単位があります。ところが日本円にはそれがないため、他国の通貨と同じ変換をすると予算が100倍になってしまうのです。1万円のつもりが100万円——テストの段階で発見して修正しましたが、確認を怠れば実害の出るところでした。
- 細かい仕様の罠も多数ありました。必須なのにエラーメッセージからは原因が分かりにくい設定項目、画像の登録方式の制限など、資料を読むだけでは気づけないものばかりです。本番相当のテストで一つずつ潰していったところ、この種の罠は合計8個ありました。
結果
出稿にかかる時間は、「詳しい人に依頼して待つ」から「その場で数分」に変わりました。数字を見ていて「この店舗の広告を強化したい」と思ったら、同じ画面からすぐに動けます。出稿作業が特定の人に依存しなくなったことも大きな変化です。さらに、広告の一覧・停止・再開も同じ画面で行え、どれがダッシュボード経由で作った広告かも識別できるため、後からの管理も迷いません。
この型が使える会社
- 広告の出稿が特定の担当者や外部の詳しい人に依存していて、頼んでから配信までの待ち時間が長い会社。
- 複数の店舗や拠点で、似たパターンの広告を繰り返し出している会社。目的別テンプレート化との相性が抜群です。
- 外部サービスと連携する社内ツールを作りたい会社。「一時停止で作って人が確認」「失敗したら自動で片付ける」という安全設計の型は、広告以外の自動化にもそのまま流用できます。
外部サービスと連携する自動化は、うまくいく流れよりも「失敗したときに何が残るか」の設計が本体。一時停止で作って人が確認する、失敗したら自動で片付ける——この2つを備えて初めて、慣れていない人にも安心して任せられる仕組みになります。
この事例のポイントは、便利さと同じだけの力を「守り」の設計に注いだことです。通貨単位のような罠は、動かして試さなければ気づけません。だからこそ、本番相当のテストと、失敗しても被害が残らない仕組みが効いてきます。難しい管理画面を全員が覚える必要はありません。よく使う操作だけを自社の画面に載せて、危ない部分は仕組みで守る。この型は、広告に限らずさまざまな定型業務のAI化に応用できるはずです。
この記事のような仕組み、自社にも入れられます
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